※本ポストは『Frog Advent Calendar 2017』及び『Service Design Advent Calendar 2017』参加記事です

11月29日(土曜日)にバンクーバーで開催された、User Experienceカテゴリのアニュアルイベント、『Vancouver User Experience Awards 2017』に参加してきました。個人的には、昨年も同イベントに参加したので、今年で二度目の参加です。

会場は昨年同様、メインストリート(Main st.)のThe Imperialです。ここは、治安的にはなかなか微妙な場所にあるのですが、同時にクールなエリアでもあって、会場の大きさや内装の雰囲気も良いことから、よくイベントが開催される場所でもあります。

チケットはEventriveで販売され、一般価格$50、学生価格$25です。学生チケットは、2週間前に見たときには既に売り切れていましたので、来年以降に参加されるつもりがある方は早めにご購入されることをオススメします。

先にこれだけ伝えておきますが、2年連続で参加してみた感想としてこのイベントはかなりおすすめできるので、$25なら全然安いと思います。

UX on Enterprise!どうやってUXドリブンな組織になるか?

本年のKeynoteは、カナダ最大の書店チェーンINDIGOのデジタルカスタマーエクスペリエンス部門ディレクター・Markus Grupp氏のお話でした。テーマは『The Influence of UX on Enterprise Transformation』です。ざっくり言うと、UXプロジェクトを成功させるために、UXerが組織に対して働きかけなければいけないことの話です。

彼の話のエッセンスをご紹介する前に、まず僕の解釈で語ります。

「UXプロジェクト」というと、ユーザーのことを理解するということに目が行きがちです。カスタマーリサーチを行い、ペルソナやカスタマージャーニーを作り、それを元になにかしらのデザインをしていくことになります。

でも、本当に顧客の体験を0から100まで改善したければ、最終的にアウトプットをする側の人間、サービスを提供する側の人間にも深くこのリサーチや、ここで定義したペルソナの意義を理解して共感してもらわなければいけません。

彼はこの、組織側に理解してもらうことが、UX施策の効果をアップする上で非常に重要であると言い、さらにこれを成し遂げるためのTipsを4つにまとめました。

1. Master the art of stakeholders – ステークホルダーを理解する

ステークホルダーとクライアントは、違います。実際にユーザーやお客さんに接してサービスを提供している人や、コールセンターで電話を受け取る人も非常に重要なステークホルダーです。

Grupp氏は、4つのステップでステークホルダーを理解する方法を紹介しました。

[1] まずはじめに、ステークホルダーが誰かを理解しなければなりません。ユーザー体験に影響を与えそうなステークホルダーの役割、所属部署を理解します。

[2] 次のステップでは、ステークホルダーにインタビューを行います。もちろん、適当にインタビューをするわけではありません。彼らが普段何を考え、話し、読み、聞いているのかを探っていきます。また、話している最中における彼らの行動を理解することも大切です。さらに、彼らのモチベーションとなっているものも理解しましょう。

[3] 3つめのステップでは、ステークホルダーのデザインプロセスに関する理解について知ります。というのも、ステークホルダーのデザインに関する知識を理解しておくことで、その後のプロセスにおいてより効果的な手段を取れるからです。

[4] 最後に、ステークホルダーをマッピングします。

正直なところ、このステークホルダーを理解するプロセスを行うことは、非常に心の折れる作業だなと感じました。個人的には、組織内のことを理解するためにこれだけ大掛かりな方法をとったことはありません。ただし、このワークがアウトプットに大きく役立つことは容易に想像ができます。

2. Facilitate the design work – 一緒にデザインワークを行う

Grupp氏が、Telusというカナダの大きな通信会社のためにプロジェクトを行った時の話です。コールセンターには毎日膨大な電話がかかってきて、その中には「WiFiのパスワードを忘れたんだけど?」という質問が非常に多いんだそうです。

ここで「よしじゃあ、パスワードを記憶しておくためのアプリを作りましょう」というのが、よくある課題解決。正しいかもしれないし、正しくないかもしれないけれど、Grupp氏たちのチームはまずリサーチを行いました。

実際にTelusのお客さんのところに行くと、パスワードを忘れない人たちはみなWiFiパスワードをメモに書いて冷蔵庫に貼り付けていたんだそうです。凄く原始的ですが、言われてみれば容易に想像できるソリューションです。

そこで彼らは、パスワードを書くための白欄付きのマグネットをデザインしたんだそうです。アプリ開発からは3周くらい回って、どアナログなデザインですが、これのほうがシンプルで費用対効果がよく、ユーザー体験を改善できる場合もあるということです。

3. Speak the language of the organization – 組織が使う言葉を使う

組織が使う言葉で話すことが大切というのが3つめのTipsでした。

割と会場の人が共感できて笑える面白い例として、こういったデザインプロセスのことを「UX」として覚えたクライアントに「サービスデザイン」とか言っても「ん?何が違うの?」みたいな話になって理解が進まない。そこで一生懸命、チームのデザイナーやUXerたちがあーだこーだと説明するけれど、場合によってはそれぞれの説明でさえ異なっていたりして、無駄な認識の相違が生まれたりする。

という話でした。あるあるだし、言葉に溺れて本質にたどり着けないことは、日本でも広くこの業界によくあります。

こういったプロジェクトをする場合、相手側にも理解が必要であることは間違いありませんが、ステークホルダー全員が高いレベルで会話できるわけではないので、理解して欲しい相手に足並みを合わせて話せるスキルも大事になってきますね!

4. Capability building – 勉強して可能性を広げる

とにかく最新の知識をちゃんと学び続けて、自ら実験も行いましょうという話でしたが、サラッといったので、なぜこの分野に特別勉強が必要なのかが理解できませんでした。

年間アワード発表

そして、本イベントのメインの趣旨はUser Experience分野におけるその年の年間アワードを発表することです。後半は5つにグループ分けされたカテゴリにおいて事前にノミネートされ、最終決戦に残った3つずつのプロジェクトの中から、カテゴリごとのトップ、そして全カテゴリを通じたトップが発表されます。

また、本イベントのウェブサイトには各プロジェクトへの投票フォームリンクが記載されていて、この一般投票によって選ばれたプロジェクトは『People’s Choice』という称号をゲットすることができます。

さて、今年の年間アワードはどのチームの手に渡ったのでしょうか!?

UX BY STUDENTS

学生によるプロジェクトを評価するのがこのカテゴリです。

今年はSFUの学生チームによる『The ACLU Crisis Center』がアワードを獲得しました。

これは、言論の自由を守ることを目的としたアメリカのNGO団体ACLU(アメリカ自由人権協会)のサービスをサポートするアプリです。ACLUは、先日アメリカ大統領のトランプが、一時的にイスラム諸国からのアメリカ入国を禁止したときのように、緊急事態になると必要とするひとにリーガルサポートを提供する機能を持っているそうなのですが、そういったリソースを管理するためのアプリがこのThe ACLU Crisis Centerというわけです。

僕自身、あまりこのあたりのアメリカ国内の団体やサービスに詳しくないので、曖昧な説明ですみません。

UX FOR GOOD

NPOなど、社会に対して良いインパクトを与えることに主眼が置かれたUXプロジェクトを評価するのがこのカテゴリです。

今年は『Kudoz』というサービスがアワードを獲得しました。

これは、障がいのある方とボランティアをしたい方を繋げるハブ的なサービスです。ボランティア希望者は、自分のこれまでの経験をもとに何か障がいのある方と一緒にできる体験をKudoz上で提案します。airbnbに自分の空き部屋を掲載するような感覚です。そして、その体験をしてみたいと思った人が応募して、実際に決められた時間の中で体験を提供します。

自分のできることの中でボランティアを提供したいと思うユーザーと、いろんなことに挑戦してみたいと思う方、双方のユーザー体験、もっというと人生体験を向上した素敵な事例でした。

UX FOR EMERGING EXPERIENCES

新しいジャンルのデバイスや技術領域に関するプロジェクトを評価するのがこのカテゴリです。例えば、ARやVRのUXとか、ウェアラブルやボットと言うような新しい技術です。

今年はFinger Food Studioによる『Sphero』がアワードを獲得しました。

これは、『Sphero』というボール上のおもちゃを使い、子供に楽しみながらSwift言語を学んでもらうためのサービスです。実際に使っていないのでどのあたりがUX的なグッドポイントだったのかわかりません。すみません。

結構こういう子供にプログラミング言語を学んでもらうためのソフトやハードが流行ってきていますね!

UX FOR PRODUCTS & SERVICES

プロダクトのUXプロジェクトを評価するのがこのカテゴリです。

今年はDrive Digitalによる『Hollyburn Properties』がアワードを獲得しました。

これは、部屋探し体験を向上するWebサービスです。確かに部屋探しって、ほとんどのサイトがものすごく使いづらいUIになっていると思うんです。特にカナダの部屋探しって、10年以上前の掲示板サイトみたいなので行うことも多いので、いつもストレスを感じます。そういったストレスを軽減するために、この『Hollyburn Properties』というサイトでは、なるべくページ遷移をなくして自然に部屋のことがわかるような作りにしています。

実際に使ってみましたが、なかなかスムーズに利用できてよかったです。コンテンツがちょっと少ないので、もっといろんな部屋が見つかると嬉しいな。

UX FOR WORK

イントラネットや社内システムなど、労働環境のUX改善のためのプロジェクトを評価するのがこのカテゴリです。

今年は『Klue』というツールがアワードを獲得しました。

今僕たちは、メールやSalesforceやSlackなど、様々なツールを社内で使っています。これらの様々なツール上での情報のやり取りを一箇所にまとめ、重要なものから教えてくれるのがKlueです。実際にどのくらい役立つのか、自分で使ってみないとわかりませんが、確かにそういった優先順位づけが実現できるのであれば素晴らしい体験の向上につながると思います。

PEOPLE’S CHOICE

今年PEOPLE’S CHOICEを受賞したのは学生チームによる『Change the game』というプロジェクトでした。

スポーツ選手には男女間に報道の格差があり、報道の仕方にも違いがあるそうで、この『Change the game』というアプリで女性アスリートに関する報道を増やすことで、そういった差を東京オリンピックまでに埋めていこう!といったような趣旨のアプリです。

BEST UX

そして、各アワードの受賞者の中からさらにトップを決めるBEST UX。

今年はUX FOR GOODを受賞した『Kudoz』が、この賞に輝きました!素晴らしい、おめでとうございます!

まとめ

やっぱり今年のイベントも、キーノートが印象的でした。

企業内の調整ってなかなか難しいし、こういったデザインワークって本当に心がポッキリ折れてしまいそうになるくらいハードルが色々高いんですけど(え、それやって意味あるの?ROIどうなるの?って聞かれたり・・・)、逃げちゃダメですね。インパクトのある施策を行いたければ、逃げてちゃダメだなと思いました。

またこういったカンファレンスに参加したらレポートしていきたいと思います!